── これはフィクションのシミュレーションです。
実在の技術・人物・団体とは関係ありません。
でも、起きなかった理由を、誰も説明できない。──
面接の日は、いつも同じだった。頭が真っ白になる。声が震える。志望動機の途中で、言葉が消える。
そのたびに届く「お祈りメール」。今後のご活躍をお祈りします、という一文が、いちばん静かに刺さる。
もし、その痛みごと存在しない世界があったなら。そう願った夜、机の引き出しの奥で、もしもボックスが小さく光った。
もしもボックスは、願いを叶える道具ではない。願いどおりの「もしも」を、そっと覗かせてくれるだけの箱だ。それでも、藁にもすがりたい夜には、じゅうぶんすぎる力を持っていた。
もしもボックスに託した、たったひとつの願い
「失敗という概念が存在しない世界だったら」。声に出すと、なんだか子どもっぽい願いに聞こえた。
それでも、藁にもすがる気持ちだった。何社受けても、結果は同じ。自分という人間そのものが、否定され続けている気がしていた。
もしもボックスの蓋を閉じた瞬間、部屋の空気が少しだけ変わった気がした。痛みの成分だけが、そっと抜き取られたような、生ぬるい無風。
翌朝、いつもと同じ面接会場に向かった。何かが変わった実感はまだ、なかった。

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言葉に詰まっても、誰も気にしない部屋
面接官の前に座る。志望動機を話し始めた瞬間、また言葉が詰まった。いつもなら、ここで心臓が跳ねる。
けれど、面接官は眉ひとつ動かさなかった。急かすでもなく、呆れるでもなく、ただ静かに続きを待っている。
評価軸(ひょうかじく)というものさし
評価軸とは、面接で人を良し悪しで測るためのものさしのことだ。この部屋には、そのものさし自体が見当たらなかった。
「大丈夫ですよ、ゆっくりで」。面接官の一言に、拍子抜けした。落ちるかもしれない、という前提そのものが、この部屋には存在していないようだった。
面接室を出た後も、その違和感は消えなかった。いつもなら、面接の後は決まって反省会が始まる。あの答え方はまずかった、あそこで噛んだ、と自分を責める時間だ。
けれどその日は、何も出てこなかった。責める材料そのものが、頭の中に見当たらない。
駅までの帰り道、いつもの緊張の余韻がないことに気づいた。肩の力が抜けている。呼吸が浅くない。それだけのことが、こんなに軽いのかと驚いた。
けれどその軽さの正体を、まだこのときの自分は知らなかった。
もしあなたが今、面接の緊張を抱えているなら、この「否定されない空気」がどれほど軽いか、想像できるだろうか。
「お祈りメール」という言葉が、通じなくなった日
面接から数日後、友人にメールの話をした。「お祈りメールが来なくて」。そう言うと、友人は不思議そうな顔をした。
「お祈りメールって、何?」。冗談かと思って笑った。けれど友人の表情は、本当にわからない、というものだった。
調べてみると、周囲の誰も、その言葉を知らなかった。不採用という結果そのものが、いつからか、静かに消えていた。
免疫を失った体が、かつて平気だった痛みに驚くように、自分だけがその不在に気づいて、立ち尽くしていた。
検索しても、ニュースを見ても、「不採用」という言葉自体が、いつからか別の言い回しに置き換わっていた。誰かが決めたわけでもないのに、社会全体が静かにその言葉を手放していた。
気づけば、履歴書という言葉さえ、少し古い響きを持ち始めていた。落ちるという結果がない世界では、比較や選考という工程そのものが、ゆっくりと輪郭を失っていくのかもしれない。

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戸惑いながら、馴染んでいく心地よさ
それから何度か面接を受けた。結果は、いつも「大丈夫」だった。落ちる、という選択肢が、最初からなかったように。
最初は落ち着かなかった。緊張する理由を、体が思い出せなくなっていくようだった。けれど数週間もすると、その心地よさに馴染んでいる自分がいた。
否定されない世界は、想像より静かで、想像より優しかった。乳白色に漂白されたような、均一な安心感。
この場面が示すもの
近年、採用の現場では、候補者に配慮した「不採用連絡の言い換え」が広がっている。結果を伝えないという選択肢すら、検討され始めている。
面接だけではない。テストの点数、査定の結果、恋愛の告白。人が人を選び、選ばれなかった側が傷つく場面は、暮らしの至るところにある。もし、そのすべてから「否定」が消えたら、社会はどう形を変えるだろうか。
優しさのつもりで削られていくものが、実は人を鍛えていた免疫だったとしたら。もしもボックスの世界は、その延長線の、少し先を見せてくれる。
失敗のない部屋で、私はたしかに守られていた。けれど、何を守られて、何を手放したのか。それを聞かれても、うまく言葉にできない自分に気づいた。
「お祈りメール」という言葉だけが、私の中に、静かに取り残されている。
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この「失敗のない面接」は、もしもボックスが生んだ、ごく一部の”if”にすぎない。道具の全体像は、図録で解説している。
【免責事項】
本記事はIF-Science Labによるフィクションの社会シミュレーションです。
実在の技術・制度・団体・人物とは一切関係ありません。
記事内のシナリオ・数値・固有名詞はすべて架空のものです。
特定の立場・思想を推奨するものではありません。

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